広域調査の本質──「地図が読める者だけが真実に辿り着く」
尾行は単純に後をついていく仕事ではない。
対象者が向かう先の“予測”が最も重要だ。
特に、
大阪・京都・岡山などの近隣エリアではなく、
関東圏や東海圏に移動するケースでは、
調査の手法が全く違ってくる。
◆調査員の脳内では常に3つの地図が同時進行している
長距離調査では、以下の“仮説地図”が同時に描かれている。
①対象者の行動パターンから推測するMAP
仕事の業界
年収
生活スタイル
浮気相手の年齢
出会った場所
離婚しやすい性格かどうか
こうした情報から
「どの街を選ぶか」「どんなホテルを選ぶか」
の予測が立つ。
②過去の事例から導く“統計的MAP”
浮気調査は数千件以上行われた統計データがある。
例えば――
東京で会う場合は新宿・品川・銀座が多い
関東デートは箱根・鎌倉・御殿場が定番
長距離移動は金曜日〜日曜日が多い
マッチングアプリ女性は都心を避ける傾向
これらが調査成功率を大幅に上げる。
③現場でリアルタイムに更新されるMAP
渋滞、通行止め、観光客の多さ、地元の動線…。
現場の“気配”が正しい判断を導く。
調査員Sは、
対象者の動線を読みながら
“先回り”するように位置取りを変えていく。
これが、
どれだけ対象者が予測不可能なルートを選んでも
尾行を続けられる理由だ。
◆第7章:山梨・甲府──決定的な「二泊目」
御殿場から山梨に入った夫と女性は、
その日は甲府市内のホテルへ向かった。
ここで重要なのは、
“複数県を跨いで同じ女性と宿泊した”
という事実だ。
浮気の証拠としては極めて強い。
◆法的に強い証拠とは何か?
弁護士が最も重視するのは、
「肉体関係」を示す状況証拠である。
以下の要素がそろっていれば、ほぼ反論できない。
✔ ホテルの出入り(同時入室・宿泊の連続性)
✔ 恋人特有のスキンシップ
✔ レンタカーや交通手段を共有している
✔ 買い物・食事を共にしている
✔ 宿泊地が遠方である(言い逃れが難しい)
今回のケースではすべてが揃っていた。
◆調査員の心の中
調査員Sは、
カメラのシャッターを切りながら
重たい思いを抱えていた。
「ここまで明確な裏切りを見せつけられる奥様の気持ちを考えると…。」
浮気調査の“苦しさ”はここにある。
探偵は依頼者の味方だが、
目の前で見えてしまう“現実”は残酷だ。
それでもSは記録を続けた。
真実を知らなければ、依頼者は前に進めないからだ。
◆第8章:3日目──「帰路」は最大の判断ポイント
3日目の朝。
夫と女性は甲府を出て東京方面へ戻った。
ただ、ここで問題が起きる。
■課題:
帰りのルートが 高速か一般道か、どこへ寄るか予測できない
特に関東の高速は
分岐が異常に多い
都心部は交通量が多すぎる
渋滞で尾行が途切れる危険
関西とは複雑さが桁違いだ。
◆調査員Sの判断
Sはすぐに関東圏のガルエージェンシーの協力員に連絡。
複数地点で“受け渡しポイント”を決めた。
これにより、
✔ 尾行が途切れるリスクをゼロに
✔ 都心部に入っても位置を把握
✔ 対象者への接近しすぎを回避
✔ 法律に沿った安全な尾行を継続
広域調査は「連携力」がすべてと言っても過言ではない。
◆第9章:品川へ戻るふたり──その後、衝撃の展開
品川に到着したふたり。
しかしその後の夫の行動が異常だった。
■女性と別れたあと
夫はスマホを見ながら
東京の別の場所へ移動し始めた。
調査員Sは瞬時に思った。
「他にも女がいる可能性がある」
出張偽装型で
複数の女性と関係を持つ男性は実際に存在する。
◆調査員Sの迷い
ここで調査員には難しい判断がある。
別の女性との関係も追うべきか
依頼者が求めているのは“今回の女性との浮気”だけなのか
追加費用の問題はどうするべきか
しかしSはこう判断した。
「証拠の有無に関係なく、真実はひとつ残らず明らかにすべきだ。」
調査続行。
◆第10章:夫が向かった先は──まさかの「銀座」
夫が向かったのは、
高級ブランド店が立ち並ぶ銀座の一角。
そこで落ち合ったのは、
先ほどの女性とは全く違うタイプの
30代後半・落ち着いた雰囲気の女性。
会話から推測すると、
この女性とは以前から長く続いている関係のようだった。
◆まさかの浮気二重構造
これは“典型的な二重交際型”である。
●東京在住の20代女性
→ 「恋愛ごっこ(旅行・デート)」の相手
●銀座の30代女性
→ 「長期的な第二の関係(大人の付き合い)」の相手
こうした構造の男性は
高年収・自己愛傾向の強いタイプに多い。
◆調査員Sの観察
銀座の女性とは
飲食店に入り、
1時間ほど会話を楽しんでいた。
ふたりの距離感は
「友達以上・恋人未満」といった独特の形で、
長い間続いている関係に見えた。
この時点で、
夫の裏の顔はほぼ完全に見えた。
「この男は、複数の女性を使い分けている。」
◆第11章:調査終了──“真実”がAさんのもとへ
神戸へ戻った調査員Sは、
膨大な記録と写真・動画をまとめた。
東京での女性との密会
都内ホテルでの宿泊
箱根・御殿場・山梨デート
2泊3日の恋人旅行
決定的なホテルの出入り
銀座での別の女性との接触
行動ルート
時系列整理
証拠能力の指摘
Aさんの前で、すべてを丁寧に説明した。
◆Aさんの涙
Aさんは最初の数分、無言だった。
写真を見ても泣かず、
ただ静かに、ゆっくりと事実を吸収していた。
やがて、小さく声が漏れた。
「……ここまで、だったんですね。」
その声は震えていたが、
覚悟のある声だった。
真実は人を傷つける。
だが、真実を知らなければ未来を選べない。
調査員Sは心の中で、
「よく頑張った」と思った。
◆第12章:その後──Aさんの選択
Aさんは弁護士へ相談し、
夫との話し合いを進める道を選んだ。
調査報告書は
法律的に非常に強力で、
夫側は言い逃れができない状態。
AさんはSにこう言った。
「長距離調査で大変な思いをさせてしまって…
でも、お願いして本当に良かったです。」
探偵にとって
この言葉は何よりの報酬だ。

